クリエイター
2023.10.31
Webtoon演出の基本の『キ』を解説!演出力を上げるトレーニング方法も紹介します
横読み漫画はよく読んでいて、作った経験はあるけれど、縦長という特徴からWebtoon制作に悩みを抱えているクリエイターさん、多いのではないでしょうか。
横読み漫画はその長い歴史から、勉強法に関する書籍やYouTubeなどでのノウハウ動画が数多く存在しますが、Webtoon制作に特化した情報は、まだあまり日本国内では見当たらないようです。そのため、Webtoonに適した演出方法やネームの作成手法について、どのようにトレーニングすれば良いのか、という点についてクリエイターの皆様から頻繁にお聞きすることがあります。
そこで、本記事ではこうした疑問を抱える方々に向けて、Webtoonの演出テクニックやネーム作成の効果的なトレーニング方法について紹介していきたいと考えています。これからWebtoonの世界に足を踏み入れたいと考えているクリエイターの皆さん、ぜひ本記事を参考にしていただければと思います。
マンガ演出の基本について
Webtoonと言っても漫画であるため既存の横読みマンガの演出から影響された部分も大いにあります。演出の基本がWebtoonでどのように活用されているのか、またどのような違いがあるのか、本記事ではソラジマ作品のシーンを実例をして挙げながら紹介していきたいと思います。
「演出」の役割
まずお伝えしたいのが、Webtoonや横読み漫画にかかわらず、ネームは『テキストをイメージに変換する段階』であり、簡単に言い換えると『マンガの設計図』ということです。
そんなネーム制作で必要とされるのが『演出力』。演出とは、作家が一度も会ったことのない誰かを、作品を通して意図通りにコントロールするために仕込んでおく装置のことです。作家は意図を持って作品全体を眺めながら、さまざまな要素を使いこなしつつ、読者の感情をコントロールするために演出をするのです。
この世に作家の意図が入っていない作品は存在しません。私たちが映画やドラマ、漫画の特定のシーンで笑ったり泣いたりするのは、作家の意図どおりに仕掛けた演出の結果なのです。
例えば、漫画を読んで、または映画やドラマを観て、あるシーンで特に感動を受けてページをめくれず手が止まってしまったり、主人公の感情がそのまま伝わってきて泣いてしまった経験、ありませんか?このように、作家が読者を笑わせたり泣かせたり、またある体験をさせたりしたいとき、作者が自分の意図を実現するために「演出」をします。
「なら、登場人物を死なせたり、強敵と戦わせて勝たせたりして、読者の感情をコントロールすればいいのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、演出とはまず「そのシーンを目撃した読者がどういう感情になって欲しいのか」を目的・意図を決め、「どう見せるのか」を悩む作業になります。
作家は自分の目的、つまり読者が作品を読んでどうなってほしいのかをしっかり考えておく必要があります。例えば、「次が気になってしょうがない状態にしたい」や「共感してほしい」「泣いてほしい」「キャラクターのファンになってほしい」などなど。
そういった目的が決まったら、あとはその目的を達成するためのツールを使って演出をしていくのですが、演出するにあたってどういうツールがあるのか、ソラジマの作品を用いて説明していきます!
演出のツール
演出ツールには、本当に様々なものがありどれも大事ですが、ここでは下記の4つについて解説していきたいと思います。
【演出のツール】
・コマのサイズ
・ショットのサイズ
・アングル
・吹き出しの位置(視線誘導)
①コマのサイズ
読者として楽しく読む際はあまり意識しないかもしれませんが、よく読むとコマのサイズが違うことに気づくと思います。
コマを使って、絵を順番に羅列することで、時間の流れやストーリーの因果関係が生まれます。作家は自分の意図通りにストーリーが伝わるように、空間を分けコマを羅列・配置させないといけません。
そういう意味で、コマのサイズはとても大事な演出要素です。読者はスクロールしてWebtoonを読むので、コマが大きいほど読者の目が止まる時間も長くなります。そのため、作品全体のテーマを表しているシーンやストーリーの中で最も強調し印象に残したいシーンは、コマのサイズを大きくして演出します。
例えば、『傷だらけ聖女より報復をこめて』の2話のシーンを見てみましょう。
『傷だらけ聖女より報復をこめて』©編乃肌 / SORAJIMA
こちらは主人公が決心をし、変化をするとても大事なシーンです。読者にインパクトを与え、作品全体のメッセージを伝えようと、スマホ画面全体を埋めるような大きいコマを使い強調しています。
また、『生意気殿下の家庭教師になりました』の1話のシーンでは一瞬の出来事を大きいコマが続くように配置し、読者の目が留まる時間を長くし、まるで時間が止まったように演出しています。
『生意気殿下の家庭教師になりました』©奥田たすく / SORAJIMA
小さいコマを使った演出方法もあります。スムーズに読み進んでほしいときに使えます。小さいコマは読者の目が止まる時間も短くなるので、読者がサクサクと読み状況の緊迫感を感じてほしいシーンで使うと効果的です。
『愛する人を殺す時、私は何を思うだろう』©和泉杏咲 / SORAJIMA
また、意図を隠したいときにも使えます。主人公や新しい人物の登場シーンで、顔や体の一部分だけ小さく見せ、読者の期待感を高めてから、大きいコマで「ドン!」と登場人物を出す演出方法はジャンル問わずいろんな作品で使われています。こちらはスクロールして読むWebtoonの特徴からより有効に活用できる方法でもあります。
このように、コマのサイズを調整して飽きのないようにメリハリをつけることができます。
(左から)『生意気殿下の家庭教師になりました』©奥田たすく / SORAJIMA
『消える私に夫の愛はいりません』©編乃肌 / SORAJIMA
『狂愛と純愛』©烏丸紫明 / SORAJIMA
②ショットのサイズ
ショットは映像演出の用語で、カメラが対象を撮る際のアングルサイズのことです。細かく分けるとさまざまな種類がありますが、ここでは下記3つを簡単に紹介します。
【ショットのサイズ】
・ロングショット
・ミディアムショット
・クローズアップショット
ロングショット(Long shot)は、人物の全身が写っているショットのことです。対象を遠くから撮って、登場人物の全身や今いる場所がわかる利点があります。全身を使った行動(特にアクションシーン)を見せたいときや、状況・場所を客観的に伝えたいときに使うことが多いです。また、孤独や抒情、開放感を感じさせるときに使うと効果的です。
ミディアムショット(Medium shot)は、人物の頭から上半身、胸の位置までを写しているショット。日常で人と会話するときに見慣れているサイズのため、緊張せず気楽に見ることができるショットです。上半身の動きや服装・髪型・手の動きなどを捉えるシーンに有効!会話のシーンで使われることが多いです。
ただ、作家としても安心して使えるショットのため、たまにミディアムショット一辺倒のネームを描くミスが起きたりもします。読者が飽きないようメリハリを意識してショットのサイズを変える必要があります。
最後は、クローズアップショット(Close up shot)。顔や体の一部分のみを、すごい近い距離から映しているショットです。登場人物を強調したり、感情や興奮、緊張感の昂まりを強調したりするシーンでよく使われます。キャラクターの表情から感情が見えるため、読者が感情移入しやすくなります。また、手・足・小道具などをアップにすることで、より臨場感を読者に与える効果もあります。
『見返りは求めていなかった』©平野あお / SORAJIMA
『見返りは求めていなかった』の第1話における以下のシーンでは、ショットのサイズとコマのサイズを巧みに組み合わせて、読者の興味を引きつけています。
主人公が薬を飲ませようとする妹の手を振り離す瞬間はクローズアップで描かれており、スプーンが落ちるシーンはロングショットで表現されています。これによって、読者に何が起きたのかを見せつつ、メリハリのある流れが生まれています。さらに、ロングショットの利用により、キャラクターの表情は隠され、緊張感が一層高まっています。静かな空間に広がる「カラン」とスプーンが落ちる音が実際に聞こえるような演出は、読者を物語の世界に引き込み、臨場感を感じさせます。
『見返りは求めていなかった』©平野あお / SORAJIMA
同作品の2話のこちらのシーンも、最初はロングショットを使い場所を見せ、ミドルショット、そしてクローズアップとどんどんショットサイズを変えていき、まるで読者が建物の中に入るように感じられるよう演出をしています。また最後の2コマ、まずロングショットでキャラクターがどういう状況に置かれているのかを説明した後、クローズアップ&大きいコマを使い重要人物であることを伝えながら、キャラクターの感情もしっかり見せています。
このように様々なショットサイズを組み合わせることで読者の興味を惹く作品ができあがっていきます。ロングショットだけが続くと、読者は遠くから客観的に状況を見てしまうため、誰に感情移入して読み進めて良いのかわからず、興味を失ってしまう事態に陥りかねません。
また、ロングショットだけでは迫力や緊張感を感じさせることが難しいため、読者が飽きてしまう可能性が高くなります。だからといってミドルショットやクローズアップが続くと、人物が誰といるのか、朝なのか夜なのかがわからず、ストーリーについていけなくなってしまいます。適切にショットのサイズを組み合わせ、物語を演出することが大切です。
③アングル
カメラアングルは、人物をどこから移すか、カメラの位置で決まります。ショットのサイズと同じく様々な種類がありますが、ここでは3つだけ説明します。
【アングルの種類】
・ハイアングル(俯瞰)
・ローアングル(煽り)
・アイレベル
ハイアングル(俯瞰)は、名前の通り上からのショットのことです。設定(場所、時間、人数、雰囲気)を見せるためによく使われます。
こういう設定は、横読み漫画ではワイドショットなどでも見せることができますが、Webtoonは幅が決まっていて縦で長いため、ハイアングルを使うことが多いです。場所や時間、一緒にいる人数など多くの情報を一つのコマで伝えられるため、場面転換の最初に使うと効果的です。
一方でローアングル(煽り)は、名前の通り下からのアングルのことです。読者に対して、登場人物の威厳や地位などを見せることができます。登場人物を尊大に見せたいときに効果的です。
『異世界パティシエのお菓子改革』©白井千夜子 / SORAJIMA
こちらのシーンでは、ハイアングル(俯瞰)で描くことで、大勢の人数が高級感のある場所で何か会議をしているということがわかります。もしこのシーンがなく、2つ目にコマから始まったとしたらどうでしょう。きっと読者が状況を把握するのにもっと時間がかかるため、会話に集中できなくなる可能性がでてしまいます。
(左から)『傷だらけ聖女より報復をこめて』©編乃肌 / SORAJIMA
『見返りは求めていなかった』©平野あお / SORAJIMA
『愛する人を殺す時、私は何を思うだろう』©和泉杏咲 / SORAJIMA
悪役が出てくるこういったシーンでは、主人公が悪役を見上げることが多く、主人公目線のローアングル(煽り)を使い読者により臨場感や恐怖感を与えています。
『愛する人を殺す時、私は何を思うだろう』©和泉杏咲 / SORAJIMA
このシーンでは、主人公の娘を助けるために最後の挨拶をするお母さんを描いています。目線が平行(アイレベル)なので、目で訴えかけられているように感じ、読者はまるで主人公かのように感情移入しやすいメリットがあります。
④吹き出しの位置(視線誘導)
Webtoonは通勤中などのちょっとした時間に読まれることが多いです。そのため、読者にストレスを感じさせずにサクサクと読み進めるための配慮が必要です。
横スクロール型の漫画と同じく、読者はWebtoonを読む際にまずセリフを確認します。吹き出しは読者の視線が留まる場所であり、読者は吹き出しを基準にして視線を移動させます。そのため、作家と編集者は読者の視線の動きを意識してネームを制作しなければいけません。
あるWebtoon作家は、まず吹き出しの位置を決めてから、読者の視線の動きを妨げないようにキャラクターを配置しているそうです。これにより、視線の誘導がWebtoon制作においてどれだけ重要であるかが理解できます。
一つの吹き出しに長いセリフを書かないのも効果的な演出方法です。スクロールが止まってしまうことは読者の離脱に繋がる可能性が高いです。セリフが長い場合は、2つ、3つの吹き出しに分けて配置すると効果的です。
また、吹き出しを横に並べると、読者はどちらのセリフを先に読むべきか混乱してしまいます。また、左側のセリフを読んでから右側のセリフを読む必要があるのでスクロールが止まってしまう問題も発生します。少しでも上下の高さを変え、吹き出しを横に並べるのは避けるようにしましょう。
さらに、よく見られるのはネームの左右の端に吹き出しを配置するケースです。視線誘導を意識しすぎるがあまり、吹き出しの位置を左右の極端に寄せすぎてしまうと、目が疲れてしまい離脱のリスクを高めることになります。左右の視線誘導は中心を軸に置いて、少しずらすレベルにし、大事なセリフはしっかり読んでもらえるように真ん中に置くことを意識してみてください!
紹介した4つのツールだけではなく、ほかにも演出できる要素は無限にあります。その要素の使い方がわからないと、ストーリーを自分の意図通りに読者に伝えることができません。
例えば、「受け身な主人公が何かを決心する瞬間」を描きたいとしましょう。このシーンを見た読者が「主人公の成長を感じること」を目的としたら、照明はどこから照らしたほうがより効果的なのか、アングルはどうするのか、コマとショットのサイズはどうしたらいいのかなど、悩まないといけません。
演出要素の使い方を自然に身につけるための
トレーニング方法
漫画やWebtoonをたくさん読んだ経験がある読者なら、とくに勉強やトレーニングをしなくても、自然と演出感覚が身についていて、感覚だけでもネームを描ける人もいます。
ただ、「なぜこの漫画は続きが読みたくなるのか」、「なぜこのコマに目がとまったのか」など、理論的に説明できなければ、実際に自分が描き詰まったときに修正する方法がわからず、苦労してしまいます。
感覚で読むことも大事ですが、そればかりに頼ってしまうと、なぜコントロールされたのか言語化できず、編集者に「このコマ、なぜこう演出したんですか?」と聞かれたら、答えられなくなります。ネームを描く際に読者をコントロールすることも難しくなるでしょう。
好きなWebtoon作品を読んでいると、ぐっとくるシーンがあると思います。こういうシーンは、自分のものとしてインプットされ、描くときにアウトプットできる可能性が高いです。「ぐっときたな!」と感じたシーンはスクリーンショットして貯めておき、「なぜ?」を分析し、言語化してみるのも役立ちます。
ヒット作品の模写
実際の模写練習(『傷だらけ聖女より報復をこめて』2話)
ソラジマの編集者も、活躍されているネーム作家さんも口を揃えておすすめしたトレーニング方法は「ヒット作品の模写」です。ヒット作品の模写はコマ間隔やセリフの位置、キャラクターのサイズ感を最も効率よく掴む方法として、韓国の有名Webtoon作家も自分の著書や講座でおすすめしている練習法だそうです。
まず模写したい作品を一つ選びます。初めて練習をする際にはヒット作品、プラットフォームの上位にランキングしている作品から選定したほうが良いです。まだWebtoonの文法に慣れていないうちは、実験的にいろんな演出を試している作品よりは「定石」のような作品から分析し、勉強するのが効果的です。また、今のWebtoonトレンドを把握するためにはなるべく最新の作品を選んだほうが良いでしょう。
ただし、ランキング上位にある作品でも3年以上前の作品などは文法のトレンドが異なっていることもあるので、なるべく1年いないに公開されたヒット作品を参考にすると良いです。また、海外からの作品は翻訳のため文字量が多かったり、コマが小さかったりすることもあるので、模写作品を選定する際にはそういう特徴を把握しておくことも大事です。
作品を選定したらまず1話を最初から最後までじっくり読みます。そして、吹き出しの位置、コマのサイズ、キャラクターの位置とサイズ、アングル、ショットのサイズなど意図を意識しながら真似していきます。ただ描き移すだけではなく、脚本を想像しながらネーム作家はどういう意図を持ってこのような演出をしたのかを考えながらプロの演出力、考え方を身に付けるようにします。
ある程度Webtoonの文法に慣れてきたら、たくさんの作品を読みながら気になるシーン、印象に残った演出をスクリーンショットしておき、模写してみてください。トレーニングを重ねることによって引き出しが多くなり、実際の制作時に役に立つと思います。
実際の模写練習(『傷だらけ聖女より報復をこめて』2話)
次の段階としては、既存の作品を自分の視点からブラッシュアップしてネームを制作してみる方法や、映画や横読み漫画、アニメなど他のコンテンツをWebtoon化する方法もおすすめします。
これらのクリエイティビティを刺激する方法によって、既にある物語やキャラクターを新たな視点で見つめ直し、自身のアイディアを組み込むことができます。また、既存作品のセリフを文字起こしし、それをもとにネーム制作をして、プロ作家とどういう違いがあるのか確認する練習方法もあります。
練習の際には実際に連載することを想定して、次の工程の線画担当クリエイターさんが作業できるレベルに背景や人物、指示を書き込むようにしてみてください。
このような練習を通じて、自身の表現力やアイディアの幅が広がり、読者を惹きつける作品を創造するための手法や技術を習得できます!
いかがでしたか?この記事が新たな創作の旅を支える一助となれば幸いです!
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