クリエイター
2025.09.01
キャラデザからネームまで。綾峰欄人が描く『100の魔石の大賢者』の世界と創作秘話

はじめに
この8月より連載がスタートした、『100の魔石の大賢者』(原案・脚本:長月観)。
そのネームとキャラクターデザインを手掛けているのは、あの人気漫画『GetBackers-奪還屋-』で知られるベテラン漫画家・綾峰欄人先生です。
本作は、綾峰先生にとって初めてのWebtoon作品。
今回のインタビューでは、制作現場の様子やWebtoonならではの表現の工夫について、じっくりと語っていただきました。
ここでしか聞けない貴重な話が盛り沢山です。ぜひ最後までお楽しみください!
この記事はこんな人におすすめ |
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ソラジマでWebtoonデビュー
ソラジマとの出会いは、ソラジマ担当者がDMを送ったことがきっかけだとお聞きしました。DMを受け取った時、どう思いましたか?

当時、仕事をお休みしていた時期でちょうど時間があったことと、いろいろ挑戦してみたいなと思ってお話を受けました。こんな風にDMをもらったことは初めてで、お声掛けいただけるのはとてもありがたくて、そのまま飛びついた感じです(笑)。
ソラジマに対する第一印象を教えてください。
一緒に仕事をするうちに、「ソラジマの人たちは、いろいろ変えられる世界にいる」と思いました。
私はある程度名前が知られている分、扱いに困る面もあると思うのですが、その中で「ここを改善してほしい」と丁寧に伝えてくれるので、すごくありがたいと思っています。
2年以上前からネーム担当として携わっていただきました。初めてWebtoonの制作現場に参加して、何か感じたことはありますか?
先人の作家さんたちの制作方法に倣って進めていましたが、「もっとネームに集中できるやり方があるのでは」と思い、私の方から作業内容の変更を提案したことがあります。
実際、週刊誌の1話を仕上げるよりも重たい作業だと感じて、「これは作業をしている人たちは大変だな」と思ったんです。
それに加えて、当初は「ネームはラフで良い」と聞いていたのに、描いているうちに楽しくなってしまって。結果的に、他のネーム担当の方や本来の制作方法とは少し違う形になっていると思います。
ネームとキャラクターデザインへのこだわり
綾峰先生の作るネームは、完成形に近い描き込み量です。いつもどんな想いを込めて制作しているのでしょうか?
ネームは、言わば漫画の設計図です。設計図の段階で不明瞭な部分が生まれると、その後の作業がうまく繋がりません。
原作者が最後に作品を見て「これは違う」と感じたり、文章のイメージが形になっていなかったりする場合、もともとの設計図が悪いと考えられます。
だからこそ、今までの仕事でもそこは気を付けてきました。

その「ネームを作る能力」は、どのように培ってきたのですか?
私は漫画っ子というよりはアニメっ子、少年漫画よりは少女漫画が好きで、80~90年代のアニメや月刊誌を見て育ってきました。
漫画を描き始めた高校生時代、当時活躍していた作家さんたちの作品を見比べながら、「この見せ方は違うんじゃないか」「どうしたらもっと自分の思っているものが伝わるか」「見せたいものはこれでいいのか」と考えながら1ページにつき7~8回ほど描き直していたんです。
その経験が土台になっていると思います。
読者目線を意識してきたということでしょうか?
そうですね。「人にどう見られるか」「自分をどう見せるか」という意識は、かなり早い段階から持っていました。
デビュー作の『GetBackers-奪還屋-』でも、初めてネームを担当編集者に見せた時、「見せ方が分かっているね」と褒められたことは深く記憶に残っています。
そこで「自分がやってきたことは間違いではないんだな」という自信に繋がり、自信に繋がったからこそ「このスタイルを突き詰めていこう」とも思いました。
タテ読みならではの作り方やポイントはありますか?
Webtoonには、Webtoonならではの見せ方があります。私としては、Webtoonってアニメのコンテに似ているなと思っていて。
アニメのコンテはアニメーターにきちんと内容が伝わるように作られていて、そこに「動き」が加わって完成します。
じゃあWebtoonの場合、その「動き」をどう表現するか、カメラワークをどう工夫するか――。そのテクニックを、この2年間で少しずつ身に付けてきました。
キャラクターを描く際も、癖や特徴が“個性”として伝わるよう意識しています。立ち上がる動きや表情、人とのやりとりや反応の仕方まで、「この子なら、こんな動きをするだろう」と考えながらキャラクターごとに差別化しています。
ただ、まだキャラクターの研究が甘いと感じていて、大きな差別化まではできていないんですよね。今の時代はキャラクターの個性を前に出したほうが読者の印象に残りやすいのですが、その辺がまだまだ足りないなと。
綾峰先生は今回、ネームだけでなくキャラクターデザインも手掛けています。ネーム制作やキャラクターデザインにあたって、長月先生とご相談したことはありますか?
実は、長月先生と直接やりとりしたことはなくて。
原作者と絵描きが話し合うと、お互いが遠慮し合って話がズレてしまうか、反対にケンカしちゃって進まないってことになりがちなんです(笑)。
本作では、中畑さんが間に入ってうまくバランスをとってくれています。
キャラクターデザインも、基本的に長月先生が作ったキャラクター設定を元にデザインに落とし込んで投げ返し、中畑さんが上手に伝えてくれている形です。「こうすると、もっとキャラクターを動かしやすいのでは」という提案もお互い出し合っていますね。


編集者との関係性の築き方
これまで数々の編集者と仕事をしてきた綾峰先生ですが、ソラジマの編集者・中畑についてどのような印象を抱きましたか?
中畑さんと初めて話した時、「勘が鋭く、仕事がしやすい編集者だな」と感じました。
作家の意図を汲み取るのがすごく上手で、それを優先してくれるんです。だから、「編集者の意向で作品が思い通りに作れない」という心配もありません。
長月先生とお互いアイデアを出し合える関係性になっているのも、中畑さんの力が大きいと思います。
とても素直で勉強家なので、私が「こうした方が良いのでは?」と提案すると、「じゃあそれやってみますね」と柔軟に取り入れてくれるんです。
さらに、私がどうしようか迷いながら描いた部分も、きちんと見抜いて指摘してくれます。それって実はすごいこと。「できる編集者だ」と感じましたし、とても誠実に漫画と向き合っている人だと思います。
お話を聞いていると、とても良い関係性を築かれているように感じます。その点についてはいかがでしょう?
お互い尊敬し合ってプラスの面を見ているので、きちんと意見が言えるんだろうなと感じています。
人間関係を築く中で、マイナスな面ばかり見ると話すのが億劫になりがちですが、本作の現場ではそんなことはありません。
中畑さんは「ここが面白かったです」と自分なりの感想を伝えてくれたり、こだわって作った部分を褒めてくれたりするので、作った側としては嬉しい限りです。
そういうことが言える編集者さんって、近年では珍しいと思いますよ。
初のWebtoon制作ならではの挑戦
綾峰先生にとって本作が初のWebtoon作品です。タテ読みだからこそ工夫したことや新たに挑戦したことはありますか?
例えば、こちらのバトルシーンのように、あえてスマホの画面に収まらない長めのコマを使ってみました。こうすることで、時間経過の“間”や読者の読むスピードを調整できないかと考えたんです。

Webtoonはスマホの画面サイズに合わせる必要があるので、どうしても絵が小さくなったり、セリフでスペースを取られたりしがちです。
そこで、「下に流して読む」というWebtoonの特徴を活かし、説明的なセリフの間にしっかりと絵を挟んで、最後に言いたいことを持ってくる手法を取り入れました。これも一つのテクニックですね。

読者が自分の時間感覚で読めるように配慮しつつ、こちらでもある程度は読む速度をコントロールできるよう意識しています。こうした工夫が、これからWebtoonで面白くなる部分だと思います。
このほか私の癖でもありますが、画面を斜めに配置して空間を広く見せる手法もよく使います。

普通の縦配置だと、横が狭まって画面内にきっちり収まっている感じがしますよね。それはそれで一つの効果なのですが、斜めにすることで空間や地面をもっと広く見せることができます。
ヨコ読み漫画との違いを感じた点を詳しく教えてください。
ヨコ読み漫画では、ページをめくった時の「開き」をとても意識します。
雑誌をパラパラめくる時、人間の目線は左側のページに留まりやすいんです。
そのため、左側に印象的な絵を配置するというテクニックがよく使われます。
Webtoonではこのテクニックが使えないので、少し大変ですね。
ただ、これまで手掛けてきた漫画は文章量が多く、絵が見切れることもよくあったんです。その結果、コマ内が窮屈になり、キャラクターの表情や動きを見せることに苦労していました。それが自分の弱点だとも感じていました。
Webtoonの場合は柔軟にセリフの位置が変えられるので、「一枚の紙」に縛られない描き方が可能です。そこがヨコ読み漫画との大きな違いで、自分の弱点も克服しやすくなりました。
絵には空間が必要で、ある程度ゆとりを持って描くと、キャラクターの表情や動きがぐっと伝わりやすくなります。Webtoonだとその辺りの見せ方も試しやすいですね。
ほかにヨコ読みではできなかった、Webtoonならではの表現手法はありますか?
Webtoonの余白って心理的描写にとても有効だと思います。左右にコマを寄せるだけで時間経過も表現できますし、セリフの縦の置き方で心情描写に変化がつきます。説明文でも時間の流れや空間の印象を操作できたりといろいろな手法が取れて面白いです。
同じような手法をヨコ読み漫画でしようと思うと、ページ数が足りなくなります。ヨコ読み漫画ではページ半分を使う大ゴマも、Webtoonだと1画面に収まるので。
また、ヨコ読み漫画では余白があると間延びした印象を与えがちですが、Webtoonではその余白が演出に変わります。
少女漫画は余白を使った感情表現が多いので、Webtoonとの相性が良さそうですよね。先ほど話した通り私は少女漫画を読んで育ってきたので、Webtoonに合っているのだと思います。
反対に少年漫画は1コマの中にドンとセリフを置く表現が多いので、そのままWebtoonを描こうとすると窮屈に見えたり、アクションシーンに物足りなさが出たりするかもしれません。
共同制作も初の挑戦だったと思います。面白いと感じた部分はありますか?
正直なところ、私のネームのあとに作業する線画や着彩の人が大変かもな、という心配が第一です。友人からも「お前のネームは人を苦しめる」と言われたくらいですから(笑)。
本作の現場で面白いと感じるのは、皆でアイデアを出し合いながら作っている実感が得られるところです。チーム全員で「面白い作品」を目指していく感覚が良いですね。
今回のような分業制は本当に初めてなので、「読者にどう伝わっているのかな」という不安もあります。でも、チームの一人ひとりが「面白い作品だ」と思えれば、自然とプラスの力が働き、より良い作品になると思うので。そこもまた面白い点なのでは。
今後の展望と読者へのメッセージ
Webtoonならではの魅力や可能性は、どんなところにあると思いますか?
Webtoonもヨコ読み漫画も、それぞれに違った面白さがあります。
漫画家として、Webtoonにはまだまだ開拓の余地があると感じました。今後さらにヒット作が生まれれば、Webtoonも一般大衆に受け入れられるのではないでしょうか。
それから、Webtoonはクリエイターにとっても参入しやすいものだと思います。
ヨコ読み漫画の難しいところは、コマの配置です。
その点、Webtoonは1コマずつ順番に見せられるので、コマの大きさを気にせずに作れます。コマ割りのテクニックが不要な分、Webtoonは描きやすいと思いますよ。
今後挑戦してみたいWebtoonのジャンルはありますか?
ファンタジーも好きですが、SFもいいですね。
ほかに挑戦したことがないジャンルといえば、女の子がいっぱい出てくる漫画ですけども(笑)。
あと今のWebtoonってスポーツ漫画が少ないですが、相性は良いのではと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

Webtoon新人作家の綾峰と申します(笑)。皆さんに楽しんでいただけるように、チーム全員で頑張ってきました。これからいろいろな展開を繰り広げる『100の魔石の大賢者』を、どうぞよろしくお願いいたします。
作品紹介
『100の魔石の大賢者』(原作:長月観 ネーム・キャラクターデザイン:綾峰欄人)

▼あらすじ
生活魔法しか使えない少年・トーリは、病気の兄を支えるため、冒険者ギルドで下働きをしていた。
倒せるのはスライム程度で、得られる魔石もわずか。
日銭を稼ぎながら、ギルドメンバーからの理不尽な扱いに耐える毎日を送っていた。
そんなある日、彼は洞窟で“喋る本”と出会う。
「キミは“本物の魔石”を取りたくないか?」
その言葉が、トーリの運命を大きく変えていく。
——生活魔法使いの“魔石無双”譚、ここに開幕!
▼本編はこちらから▼
【ソラジマTOON】https://sorajimatoon.com/comics/01K3MQZZ7W8HTNB1ZYE9D1G9C5
【LINEマンガ】https://u.lin.ee/KRXvcPh/pnjo
【めちゃコミック】https://mechacomic.jp/books/213817
【ebookjapan】https://ebookjapan.yahoo.co.jp/books/916072/
おわりに
インタビューを通して、綾峰先生ならではのテクニックや考え方をたっぷり知ることができました。
そんな先生のこだわりが随所に詰まった『100の魔石の大賢者』は、ソラジマTOONをはじめ、LINEマンガ・めちゃコミック・ebookjapanで好評連載中です。
先生の工夫を意識して読めば、物語やキャラクターの魅力をこれまで以上に楽しめるはず。ぜひ存分にご覧ください。
さらに、ソラジマでは「今世紀を代表するコンテンツを創るー」というビジョンに向け、一緒に挑戦してくれるクリエイターを募集しています。
そしてそんな才能を見つける編集者志望の方も引き続き募集しております。
私たちと一緒に、Webtoonの可能性を切り開き、大ヒット作の創出を目指しませんか?
あなたからのご応募、お待ちしています。
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